来 歴


なつかしい声


見ようとして見えないのは
目の中の空に
ことばの棘が刺さっているから
あれもこれも
去年の薔薇の
のびすぎた枯れ茎に
まだ育ち続けている鋭い痛みだ

歌おうとして歌えないのは
空の痛みと
私のことばが手をつなげないから
山鳩はいつも同じ場所で
千年も同じ場所で呼んでいる
どんなに飛び上がってみても
私はここから出て行けない
せめて鳥のことばで
呼びかわせたらいいのに
私のくらやみはもっと深くなる

ことばを土に埋めて
また次のことばを土に埋めて
板きればかりを突き刺して来た
その古いくさびのすきまから
あふれ 湧き上がる
無数のさざめき
そして底ぬけに明るい祭りの歌
そのあとで
高く駆けのぼるつる薔薇
鮮やかにひるがえる真紅の花びら
すみからすみまでの青い空
心の中の優しい部分に向かって
帰ってくるなつかしい山鳩の声
それからかぐわかしい
ことばの発芽を心から願って
とほうもなく長い井戸を
今は堀りに行くところだ

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